大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成元年(わ)1554号 判決

本店所在地

大阪府松原市天美南四丁目一〇番二一号

大伍貿易株式会社

(右代表者代表取締役 芝野進)

(右代理人 芝野修)

本籍

大阪府松原市天美南四丁目三二五番地

住居

同市天美南四丁目一〇番二一号

会社役員

芝野修

昭和二年三月一五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官山田廸弘出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人大伍貿易株式会社を罰金一億円に、被告人芝野修を懲役一年六月にそれぞれ処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人大伍貿易株式会社(以下、被告会社という。)は、大阪府松原市天美南四丁目一〇番二一号に本店を置き、人造真珠等の輸出等を目的とする資本金二〇〇〇万円の法人であり、被告人芝野修(以下、被告人という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て

第一  被告会社の昭和五九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における実際所得金額が二億二〇一万四四九六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、架空の仕入れを計上し、売上げの一部を除外するなどの行為により、右所得の一部を秘匿した上、昭和六〇年二月二六日、大阪府八尾市本町二丁目二番三号所在の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三二一五万八五七九円でこれに対する法人税額が一一七四万七二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額八五二六万九七〇〇円と右申告税額との差額七三五二万二五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第二  被告会社の昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における実際所得金額が三億六一五九万七五五九円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、前同様の行為により、右所得の一部を秘匿した上、昭和六一年二月二七日、前記八尾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三六四八万四一二七円でこれに対する法人税額が一三五一万七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億五四二六万一〇〇〇円と右申告税額との差額一億四〇七五万三〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第三  被告会社の昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における実際所得金額が五億三万六〇八二円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、前同様の行為により、所得の一部を秘匿した上、昭和六二年二月二七日、前記八尾税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が四六二四万四五八七円でこれに対する法人税額が一七六三万三四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億一四一〇万六五〇〇円と右申告税額との差額一億九六四七万三一〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告会社代理人兼被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の被告人に対する各質問てん末書(三六通)

一  上野武義、伊崎満里子、坂下正男、松尾俊及び芝野進の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏の上野武義(五通)、岸田全代(四通)、植野文夫、網谷佳代子、伊崎満里子(三通)、芝野純直(二通)、芝野哲也(三通)、丸谷美智子(四通)、坂下正男(二通)、松尾俊、南勇、西田美代子及び芝野進(検察官請求証拠番号81、89、90を除くその余の一二通)に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書二五通(前同番号15ないし26、28、ないし31、33ないし40、42のもの)

一  被告会社作成の証明書

一  検察官作成の報告書

一  被告会社の商業登記簿謄本

判示第一及び第二の各事実につき

一  収税官吏作成の査察官調査書二通(前同番号12、14のもの)

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の査察官調査書二通(前同番号11、41のもの)

一  八尾税務署長作成の証明書(前同番号4のもの)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の査察官調査書三通(前同番号13、27、32のもの)

一  八尾税務署長作成の証明書(前同番号5のもの)

判示第三の事実につき

一  八尾税務署長作成の証明書(前同番号6のもの)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処する。

さらに、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、いずれも法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一億円に処する。

(被告人に対する量刑の事情)

本件は、被告人の統括していた被告会社において、三事業年度にわたり、合計四億一〇〇〇万円余りの法人税をほ脱した事案であるが、そのほ脱額が右のとおり多額であるばかりか、ほ脱率も平均して八九・七パーセントと極めて高率に達すること、また、犯行の手段、方法は、売上げの一部除外、繰り延べのほか、三期合計約九億六七〇〇万円にもなる多額の架空仕入れを計上した上、その決済を装って小切手や約束手形を振り出し、これを取引先等に依頼して取り立ててもらい、簿外で回収するなど、大胆かつ巧妙なものであること、更には、各犯行が被告人の指示のもと、半ば会社ぐるみで計画的、常習的に行われていたことなどに照らすと、その犯情は悪質であり、この種大口脱税犯に対する最近の納税者一般の厳しい処罰感情をも併せ考えるとき、被告人の刑事責任には相当に重いものがあるといわなければならない。なお、被告人は、本件犯行の動機として、被告会社の営業実績が流行によって左右され易いため、不況期に備え資産を蓄えておきたかった旨供述しているが、不況期に対する備えの問題は、何も被告会社に固有のことではないから、これをもって格別酌むべき事情とはなしえない。のみならず、被告人は、脱税によって留保した資金でゴルフ会員権を購入したり、実弟の芝野進に分配したりするなど、個人的な用途にも充当していたのであって、動機に私欲的な要素があったことは否定できない。

そうすると、被告人が長年にわたって被告会社及びその所属する業界の発展に寄与貢献してきたこと、これまで前料なく、本件により国税局の査察を受けた後は素直に犯行を認めて調査に応じ、また、みずから被告会社の代表者の地位を退くとともに、その経理処理体制を刷新して再過なきを期し、反省もしていること、被告会社においては、本件ほ脱額に関し、既に本税・附帯税の全額を納付していること、その他被告人の年齢や家族関係など被告人に有利な諸事情を十分考慮に入れても、本件はとうてい刑執行猶予の事案ではなく、この際被告人に対し主文掲記の懲役の実刑をもって臨むのはやむをえないものと思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 白井万久)

別紙(一)

修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三)

修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙(四)

税額計算書

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例